M8軽装甲車(英: M8 Light Armored Car)は、第二次世界大戦時にアメリカ陸軍が運用した汎用装輪装甲車である[2]。開発・生産はフォード・モーター社が行った。1943年に生産が開始され、1945年の生産終了までに約8,600両が生産された[2]。
試作時の名称はT22装甲車。また、イギリス軍によってグレイハウンド(Greyhound)の愛称が付けられているが、イギリス軍はグレイハウンド装甲車は軽すぎて対地雷防御能力が低すぎると判断し、レンドリース法による本格的な導入は見送っている。
本車は制式採用時に、既に搭載武器が時代遅れになっていたという経緯にもかかわらず、大戦後も広く使用され、2000年代になっても一部の国では現役であった[2]。
概要
1941年にアメリカ軍の軍需部門は、37mm砲を装備した新型の高速対戦車車両の開発を計画した。この車両は、ダッジ WCやジープの車体後部にM3 37mm砲を搭載した対戦車車両の後継とする事が考えられており[2]、3軸6輪の装甲車体に37mm砲と同軸機銃を搭載した砲塔を装備し、前面装甲は12.7mm弾に対抗、側面の装甲は7.62mm弾に対抗可能という要求仕様であった[2]。
この要求に対し、スチュードベーカー製のT21、フォード製のT22、クライスラー製のT23の3種類のよく似た試作車両が開発され、1942年4月にフォード製のT22が制式採用されてM8装甲車と命名された。制式採用された時点で既に、ドイツ軍の戦車に対して37mm砲では能力不足である事が明らかであったため、本来予定されていた戦車駆逐大隊での対戦車用途ではなく、偵察戦闘車として運用される事となった。
M8装甲車は3軸6輪の装輪装甲車で、車体前上部にオープントップ式の旋回砲塔を搭載、ここに37mm砲を装備している。砲塔上には更に、ピントルマウントまたはリングマウントを介して12.7mm重機関銃M2を搭載可能である。全長5mほどの小型の車体であり、装輪式のため平地や路上での高速移動が可能であることから、主に偵察などに使用された。ドイツ陸軍の装甲車と比べるとシンプルで生産性・整備性に優れたが、最低地上高が低いこともあり、路外踏破性能はそれほど高くなかった。
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試作型T21
(スチュードベーカー)
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試作型T22
(フォード)
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試作型T23
(クライスラー)
形式・派生型
基本形式
- T22
- 最初の試作型。
- T22E1
- 2軸4輪とした試作型。
- T22E2
- 試作車の改良型で、M8装甲車として採用されたものとほぼ同じ状態の車両。
- M8
- 制式採用された主生産型。
- M8E1
- M8のサスペンション改良型。1943年に2両試作された。
主要派生型
- M20装甲車
- M8の砲塔を撤去し兵員室を設けた車両。M8と共に使用された。
- T69対空自走砲(T69 MGMC)
- M8に4連装12.7mm重機関銃M2を装備した動力旋回式の銃塔を装備した車両。M3ハーフトラックのバリエーションであるM16対空自走砲に比べて総合的に劣ると判断され、試作に終わった。
海外の派生型
- M8 Escarabajo
- コロンビア軍で運用されたM8装甲車には"Escarabajo"(甲虫の意)のニックネームが付けられ、暴徒鎮圧用の改造車両[3]、M45対空機関銃架を搭載した車両[4]などが運用された。
- M8 TOW
- 37mm砲を撤去したM8装甲車の砲塔上にBGM-71 TOW対戦車ミサイルランチャーを搭載した車両[5]。アメリカの企業"Napco"によって改修が行われ、コロンビア軍で採用された[6]。
- Sonderwagen M8
- 1951年に設立されたドイツ連邦国境警備隊の警察装甲車として使用された車両で、M8装甲車の砲塔から37mm砲を撤去し、その位置にMG42機関銃を搭載している。1953年からは州警察の機動隊でも使用された。1957年頃から、一部の車両は砲塔上部にイスパノ・スイザ HS.404 20mm機関砲を搭載する改造を施された[7]。この機関砲は元のM8に装備されていたようなリングマウントではなく、砲塔内部前方にピントルマウントで保持されていた。これらのM8は1960年代にスイス・モワク社製のヴォータン装甲車(ドイツ語版)に更新された。
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コロンビア軍の暴徒鎮圧用改造車両
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コロンビア軍のM45対空機関銃架搭載型
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運用国
登場作品
映画
- 『ダイ・ハード』
- ロサンゼルス市警察SWATの装甲車として、砲塔を撤去した車両が登場。テロリストが立て籠もるナカトミビルに突入しようとするが、階段の段差で立ち往生したところでテロリストからSMAWによる攻撃を受け、破壊されてしまう。
- 『フューリー』
- アメリカ陸軍の装甲偵察車として登場。
- 『ブルース・ブラザース』
- 物語の終盤、シカゴ市役所へ向かう主人公達を追うイリノイ州軍の車輛として、M4中戦車やM3半装軌車とともに登場。
テレビドラマ
- 『ラット・パトロール』
- ドイツアフリカ軍団役として登場。車体にはバルケンクロイツが描き入れられ、ダークイエロー塗装。砲塔にダミーの砲身が付けられて、より大口径砲を搭載しているかのように改造されている。
漫画
- 『パンプキン・シザーズ』
- 高々機動戦術装甲車「蠍の類型」と形状が酷似している。
ゲーム
- 『R.U.S.E.』
- アメリカの装甲偵察ユニットとして登場。
- 『War Thunder』
- アメリカと中国の陸軍ツリーに装甲車「M8 LAC」として登場。アメリカツリーのM8はイベント車両で、現在は入手困難。
- 『トータル・タンク・シミュレーター』
- アメリカとイギリスの装甲車「GREY HOUND」として登場。
- 『バトルフィールド1942 シークレット・ウェポン』
- イギリス軍の追加中戦車として登場する。
- 『バトルフィールドV』
- 米軍の追加戦車として登場。
脚注
[脚注の使い方]
- ^ a b c d e f Livesey, Jack (2007). Armoured Fighting Vehicles of World Wars I and II. Southwater. p. 71. ISBN 978-1-84476-370-2
- ^ a b c d e Zaloga, Steve (2002). M8 Greyhound Light Armored Car. Osprey. ISBN 1-84176-468-X
- ^ http://www.warwheels.net/m8escarabajoMONTES.html
- ^ http://www.warwheels.net/m8greyhoundINDEX.html
- ^ https://www.the-blueprints.com/blueprints/tanks/tanks-m/72239/view/m8_greyhound_tow/
- ^ https://aw.my.com/en/forum/showthread.php?25817-Vehicle-idea-M8-TOW
- ^ https://forums.kitmaker.net/t/m8-sonderwagen/39562
- ^ M8 Greyhound milik Polisi (Museum exhibit), South Jakarta, Indonesia: Satriamandala Museum, (2014)
- ^ Tom, Cooper (2003年9月2日). “Congo, Part 1; 1960-1963”. Air Combat Information Group. 2013年8月9日閲覧。
- ^ https://tanks-encyclopedia.com/coldwar/belgium/m8-greyhound-katangese-service/
関連項目
- 装甲車
- 装輪装甲車
- 偵察戦闘車
- M6装甲車 - M8装甲車の前に開発された2軸4輪の装甲車。主にイギリス軍、英連邦軍で運用された。愛称は"スタッグハウンド"。
- T27装甲車 - M8装甲車の後継として開発された4軸8輪の装甲車。T28装甲車(M38装甲車)が採用となり、試作に留まった。
- M38装甲車 - M8装甲車の後継として開発された3軸6輪の装甲車。第二次世界大戦終結に伴い、少数の生産に留まった。愛称は"ウルフハウンド"。
- EE-9 カスカベル装甲車 - ブラジルで運用されたM8装甲車の後継として、ブラジルで開発された装輪装甲車。M8装甲車と類似する車体デザインを持つ。
外部リンク
- ウィキメディア・コモンズには、M8装甲車に関するカテゴリがあります。